よみコミ!

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漫画の感想ブログ。メジャーなものから隠れた良作まで幅広く読んでいます。誰かの新しい漫画の出会いの場になれば幸いです。

彼方のアストラ これから漫画を知る少年少女に勧めたい近未来SFストーリー



今回は篠原健太さんの最新作『彼方のアストラ』全5巻の感想・レビューです。
過去作『スケットダンス』は週刊少年ジャンプで32巻の長期連載をした人気作でこの絵は見たことある!という人もいるかと思います。

『彼方のアストラ』はちょくちょく漫画好きの方の間で傑作だと話題となっていたので今月発売の最終5巻に併せて一気読みしました。
ざっくりした感想を言うと良質なジュブナイルSFミステリーとしてこれから漫画を知っていく少年少女に勧めたい一作でした。

「これから漫画を知っていく少年少女に勧めたい」という言い回しは、人によっては若干鼻につくかもしれないのですが、私としては傑作だ!とハードルを上げて読ませるよりも「全5巻で気軽に読めるよ~終わり方も綺麗だよ~読んでみて~」と何の気なしに読ませた方がハマる人が多いのではと思います。

個別レビューは手放しでオススメしたい作品がほとんどな中で、じゃあなんでわざわざこんな時間を割いて勧めるのかというと

彼方のアストラがこれから生まれてくる漫画のお手本になると思ったからです。

良い点、不満な点をまじえつつ紹介していきます。

 

あらすじ

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宇宙への往来が当たり前になった近未来。高校生のカナタ、アリエスら9名は“惑星キャンプ"に旅立つ。
未体験の宇宙旅行に胸を躍らせながら惑星に降り立った彼らを待ち受けるのは謎の球体でした。

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この謎の球体にキャンプのメンバー全員が飲み込まれます。
飲み込まれた先は、なんと元居た場所から5千12光年離れた宇宙(超光速で突き進んでも3カ月はかかる距離)
絶望的な状況から知恵と勇気を振り絞り帰還の旅へと向かい始めます。


犯人は誰だ?

この漫画はSF以外に冒険活劇、友情、ギャグ、恋愛など様々な要素が含まれています。
その中でも一番の肝はなんといってもミステリー要素
メンバー全員が巻き込まれたのは突発的な事故ではなく誰かが仕組んだことでした。

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そうなると誰かが帰還を阻むために妨害工作をしてきたり、その中で予期せぬ出来事が起こってなんやかんやあってメンバーの絆が深まるんだろうなーと予想していました。

実際1巻2巻と物語が進むとSFらしい未体験な世界観やジャンプらしい「努力」「友情」「勝利」が詰まった展開で着実に面白くなっていました。

これが聞いたこともない若手作家だったら問題ないのですが、描いてる人が累計発行部数1000万部を越える大ヒット作『スケットダンス』の生みの親だと考えると正直物足りなかった。

大手レビューサイト・ヤマカムさんのレビュー『彼方のアストラ』が大大大傑作だった件! | ヤマカムで傑作だ!!と興奮気味に書いているものの最初の方で「実はジャンプ+の連載途中で読まなくなっちゃったんですよね。」と書かれてあったり序盤については悪くはない(良くもない)という評価でした。

おいおい、このままじゃあ助走が足りずハードルを越えられないじゃないかと思っていました。
しかし本番は物語の後半、到着した惑星で冷凍睡眠していたポリーナの登場で物語は急展開を迎えます。

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これまでは事件を起こした犯人探しを軸に展開されていると思いこんでいたストーリーが4巻で予想もしなかった角度から謎が提示されるのだから驚かないわけがない。


ポリーナの質問に「○○ってなんだ?」と返したとき、最初は「は?」とポカーンとしてたのが、これまで当たり前と思っていた前提を完全に見誤っていた事態を理解したときの驚きは「うおーーー!!!」と興奮とワクワクが止まりませんでした。

 

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高くなりすぎてぶつかる寸前だったハードルを4巻で一気に跳び越えてきたときは安心したやら驚きやら色々な感情が巻き起こり、これまでの伏線を見事に回収していく4巻は間違いなくスケットダンスを越える快感がありました。すげー気持ちいい!

 

もっと面白くなれたとは思う

これまで良い点を挙げてきましたが正直きちんと助走をつけてハードルを越えたかったという気持ちもあります。不満な点がいくつかありました。

・惑星の生態系がよく出来すぎていた
・とんとん拍子に展開が進みすぎる
・恋愛パートがちょっと多い
・ノリと置かれてる状況の乖離

惑星を5つではなく3つにしてその惑星で起こる問題を色々解決して友情を深めて行ったり、特殊な生態系の話はもっともっと見たかった。

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特に未知の生物や独自に発達した生態系が単純ながらよくできていて映画版のドラえもんのような大冒険も描こうと思えば描けたんじゃないか。
ジャンプ+じゃなく少年ジャンプで連載していたらそんな展開が読めたんじゃないか。と容易に想像できてしまうのが褒めきれない原因の大部分です。

だから「あったよ!丸太が!」レベルであらゆる問題があっさり解決するならカップルは一組ぐらいに絞って冒険部分や一人一人に焦点をもっと当てれたんじゃないか。
全く違うジャンルに挑戦しようという意気込みを成功させようと準備はできてるのに反発する編集に対して日和ったのではないか。

伏線回収の巧みさ、スケットダンスの実績を考えると篠原先生なら「もっとできたのはでないか」という期待したゆえの不満がありました。
そしてこういう不満も全ては話がもっと長ければ解消できた問題なのがじれったく感じます。

ただ短い巻数だからこその良さもまた多く、これからの漫画の手本になる。そんな魅力があります。

 

これから漫画はもっと短くなる

『彼方のアストラ』は話を膨らませればもっと面白くなれたという感想をもつ一方で、完結してから売上が伸びだした原因は全5巻という「丁度いい」まとまり具合にあると踏んでます。

・学生のお小遣い程度でまとめ買いできる「丁度よさ」
・これぐらいなら飽きずに読めるだろうという「丁度いい」気楽さ
・名作のわかりやすいオマージュで老若男女が興味をもてる「丁度よさ」

漫画賞に選ばれて大々的に特集されれば苦労はしませんが、ほとんどの漫画はそんな栄光の漫画賞とは無縁のまま連載し完結を迎えます。
○○さんは○○みたいな漫画が多すぎるみたいな意見をたまに耳にするのですが、あっという間に消費されてしまう漫画業界で生き残るのはキャッチ―なキャラクターであったり、ストレスを感じさせない「丁度いい」話作りというのは必要なスキルだと思っています。

そんなことはない俺は多少ストレスを感じるものが好きだ、もっと長編ならではのカタルシスを味わえる漫画が好きだと思うなら応援してください。主張してください。私も長編の方が好きです。彼方のアストラよりスケットダンスの方が好きです。
ただ好みじゃないと実りのない批判をするのではなく、それよりもこっちが好みだと主張すべきだし、いいところは見習えばいい、そんなスタンスです。

 

 

おわりに

今回彼方のアストラを素直に褒められなかったのは「スケットダンスが好きすぎた」ことが大きな要因でした。

 

ただ「面白いミステリー漫画がある」そんな紹介の仕方であれば多くの方に届く作品だと思います。

 

これから何十万部、何百万部の大ヒット作が出てくるのはとても困難な道のりです。
ヒット作のない新人や若手ならなおさら。
それでも面白い漫画を世に出すんだという人がいるなら、この『彼方のアストラ』は教科書のような存在になりえます。

リスペクトのあるオマージュであれば『11人いる』『十五少年漂流記』や藤子・F・不二雄など名だたる面子を彷彿させようとも叩かれず、むしろ賞賛されるのがよくわかるし、手の届く範囲で綺麗に完結させて評判を上げれば次は長編にも挑める可能性が高まるのは間違いないでしょう。

これよりもっと面白い漫画が描けると思うなら挑戦すればいいし、漫画に限らずこれより面白い話があるなら紹介すればいい(その場合他の作品を貶さないように勧める必要はあるが)

ノリとか物語の全体像は面白いけど短いゆえに不満を感じるという人がいれば『スケットダンス』を読んで打ちのめされればいい。

長編、短編ともに完成度の高いものにきっちりと仕上げることができる篠原先生はこれからの漫画を語るうえで間違いなく必要な存在です。


後半の畳みかけるような怒涛の展開、5巻という長さだからこその間延びのない構成で一気読み推奨の良質なジュブナイルSFミステリーでした。
もっと作者の魅力に触れたいという人は『スケットダンス』もおすすめです。
篠原健太先生の次回作にも期待します。

 

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