よみコミ!

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漫画の感想ブログ。メジャーなものから隠れた良作まで幅広く読んでいます。誰かの新しい漫画の出会いの場になれば幸いです。

それは最高で最悪なバッドエンド『わたしのふしだら』感想

今回紹介するのは少年画報社ヤングキングアワーズGHで連載されていた大見武士先生の「ふしだら」シリーズ第2弾『わたしのふしだら』の感想・レビューです。


前回の記事に(普段の規模にしては)多くの反応をいただいて驚きました。

 


好意的なコメントがある一方で、売野氏のファンに暴言吐かれてブロックされたりとPVが増えてアンチも増えるという焼畑農業かよという気持ちも無きにしも非ずですが、論点のずれた反論を逐一気にしていては身が持ちません。

運動して気晴らしするなり、ギャグ漫画でも読んでストレスに対処していきましょう。
アフロ田中なんかはストレス解消に最適ですよ(宣伝)


話を戻しまして、本当チラシの裏に書く感覚で文字数のわりに時間もそんなにかからず、ただ書きたかったから書いた記事でした。
案外そんな記事の方が気持ちが込められていて読まれるのかなと、4月に完結してもなお今年読んだ中で最も強いカタルシスを味わった傑作という気持ちが半年ぶりに読み返しても色褪せなかったので紹介します。

 

あらすじ

身を焦がすような本物の恋がしたい
「ある条件」を満たすことで自らが望む年齢に変身することができるようになった女性教師・橘伽凛が若い頃にできなかったことをするため、高校生に戻って恋をする。というあらすじです。

 

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過去に戻ることができたら何がしたいですか?

もしも過去に戻れたら(若い頃に戻れたら)

世間話や空想で多くの人がしてきたことでしょう。
宝くじを当てたり、予言者になって有名人に、なんてのも夢があります。

現実的なところだと「好きな人に告白する」「真面目に勉強する」「制服デート」なんてのも大人になってから「やっておけばよかった…」と後悔することの定番です。

年をとると制服は「コスプレ」になり、告白も相手の立場を考えてしないといけない。
30過ぎて大学に入りなおして一生懸命勉強したとして、将来有望な職業に就けるかと尋ねられると「厳しい」と言わざるを得ません。

年をとってくると様々な制約、責任を負うことになるからです。
まともな人間なら、これまで築き上げてきた地位を捨てて夢に向かうなんてことは難しいでしょう。

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そんなまともな人間でも、もし無償で若返ることができたら。
得体の知れないものから授かったその能力も、対価がないなら使ってみよう。
どうせ叶わぬ恋なのだから大丈夫。
この経験が何事にも熱中することのなかった私を前に向かせてくれる。

最初はそう信じていました。

 

底なしの快楽に果てはあるか

どうせ叶わないと思っていたその恋路はまさかの両想いに。
初めての恋心は想像以上の充実感を与えます。

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この充実感は恋心に限らず、どの分野にもあてはめることができるでしょう。
テストで目標の点数や記録を取るために努力し、目標を達成できたときの喜びは計り知れないものです。

一度や二度失敗しても、成功すれば全ての苦労が喜びとなって返ってくる。
だから多くの人々は幾度となく困難に立ち向かってきました。

そんな途方もない喜びを突如失ってしまったら。
喪失感だけが残り、楽しかった記憶が反芻されることでしょう。

その喜びを取り戻すために努力したり、別の目標を見つけられるなら、それはとても素晴らしいことです。
しかし、年を取ってその熱意が失われてしまったり、別の目標を見つけられなかったときはどうでしょう。

 

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強い喜びを知ってしまった人が些細な喜びを感じて慎ましく生きることは困難です。
性欲、食欲、睡眠欲、人の欲望は際限なく押し寄せます。

お酒、賭博、そして
薬物、強いストレスを感じたとき、ダメだとわかっていても身近なところに快楽があれば手をだしてしまうのは人間の性かもしれません。

この作品を面白いと思ったのは「薬物」を「快楽」に置き換えて展開されるストーリーにあります。

薬物も(物によりますが)最初の頃はそんなに強い中毒症状はないと聞きます。
「心が軽くなる」「楽しい気分になる」「簡単に痩せられる」など売人から聞いた通りの効果がデメリットを感じず手軽に得られることで次第に中毒者になっていくのが恐ろしいところです。

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その恐ろしさはまだ序章で、立派な中毒者になったときに訪れる強い依存症に嫌悪感を抱いても、再び薬物に手を出せば解消されることにあります。
そのためとんでもない理屈で自らを正当化させたり、薬物を手に入れるために金を惜しまず、何でもしてしまう中毒者の話を聞くと恐怖以外の何物でもありません。

この物語は最初、若返りの能力を「無償」で与えられます。
不老は人類の永遠の願いの一つです。そんな能力を使って得られる快楽を知れば、多少の代償を伴ってもその能力を得たくなる。読んでいるとそんな気持ちにさせられます。

だって薬物の快楽は知らなくても、恋心や性欲を満たすことで得られる快楽はよく知っているのですから。
「薬物ダメ絶対。」という言葉は倫理観の話で理解できても、身近に潜む恐怖として感じられる人は少ないんじゃないかと思います。

そのため薬物に手を染めた人や依存症に陥った人がどういう思考になるか、どういう末路を辿るかという一つの事例として読むのも面白い気がします。

 

 

大人と子どもの違いは何か

 「いつになったら大人か」と聞かれると人によっては20歳を越えたら、社会人になったら、など年齢や経験の話になることが多い気がします。

しかし、いざ街を歩いていると、周りの迷惑も考えず怒鳴り散らす中年、列に割り込んでくるおばさんなど非常識な大人を沢山見かけます。
そんなときに店員に「ありがとう」を言える小さい子を見たりすると「こっちの方がよっぽど大人じゃないか」なんて気持ちにもなったりしますよね。

『わたしのふしだら』では大人と子どもの違いとして自制心の有無」を挙げています。

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「やりたい事だけをして」「必要なことをしない」なんて許されるのはせいぜい子どもの頃だけです。
少しずつ「やりたいことを我慢して」「必要なこと・しなければいけないこと」を理解・実行して成長することで少しずつ大人になる。
その過程で挫折や失敗を経験し、手の届く「可能性」の範囲が見える人間。それが「大人」
これをずいぶん小さな大人と捉えるか、立派な大人と捉えるか。これはぜひ本編を読んでから今一度問いたい質問です。

 

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能力を手に入れたことで自制心のタガが外れ、欲望に忠実なると、もう誰にも止められません。
やるべきことから逃避し、不誠実に雁字搦めにされた彼女の行く末はあまりにも惨くて愉快な結末を迎えることになります。

終盤は見所が沢山あるのですが、心の底から愛し合っていたはずの人に向けられる化け物を見るような形相、そして声にならない絶叫は直視できない壮絶さがあります。
必見のシーンです。



感想まとめ

不誠実に雁字搦めにされたあまりにも惨くて愉快なバッドエンド。
「薬物」を「快楽」に置き換えて展開されるストーリーで欲望と感情を剥き出しにした描写が秀逸で、これまで一般誌ではコメディ系統が多かった大見先生の新境地と言えるカタルシスが見事でした。
薬物って怖いよねーと他人事のように話してた人も中毒者の怖さを多少なりとも感じられる作品になるかもしれません。


注意点としては
救いようのないバッドエンドであること
エロに重点を置いた作品ではないこと

辺りでしょうか。1巻がAmazonでR18指定になっていて説得力がいまいちないですが、『ドリフターズ』『それでも町は廻っている』などの名作を数多く生み出した、少年画報社の青年誌で連載されていた作品で、性行為をメインにしたエロ漫画という枠ではないです。

ただエロ漫画という認識で読んで打ちのめされるのも、それはそれでエロ漫画の認識を改めるきっかけになるからとりあえず誰かが興味持って読んでもらえたらいいかなと思ってます。
あとは全2巻表記なので打ち切りなの?と思われる方がいそうですが『ぼくらのふしだら(全2巻)』と地続きになっている作品で、重版もされている知ってる人は知っている人気作です。


地続きといってもポケモンみたいなもので、今回紹介した『わたしのふしだら』からでも何ら問題なく読めます。

 

前作「ぼくらのふしだら」については序盤は正直B級感あるものの、後半についてはなかなか良いものになっているんじゃないかと思います。こちらもバッドエンドです。
興味ある人はこちらもぜひ。

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『ぼくらのふしだら』→『わたしのふしだら』でストーリーの密度が濃くなったなという印象で何作も描いている人でも明確に成長するんだなと感心しました。
『わたしのふしだら』で少し疲弊したのか一旦シリーズ連載を休止して現在は再びコメディ作品を描いていますが、落ち着いたらまたぜひ新シリーズを読みたいものです。

内容的に人を選ぶのかなと思いますが、強いカタルシスを得られる傑作としてオススメしたい一作です。

 

良ければ読んでみて下さい。それではまた。