「バラバラだったチームをひとつにまとめてくれた、あの歌声に応えよう」
週刊少年チャンピオンで連載されていた『ANGEL VOCE』
数カ月前から読み始めてようやく読み終わりました。
メチャクチャ面白かったです。
私自身スポーツはやるのも見るのも好きで、数々の名高いサッカー漫画の名作を読んできました。
その中で少なくとも完結したサッカー漫画の中なら一番おすすめしたい作品となりました。
全40巻となかなかのボリュームですが、話自体はテンポもよくそんなに時間もかからず読み終えられると思います。
じゃあなんで読むのに何カ月もかかってんだよ!と突っ込まれそうですが、読み終えるのがもったいないなあというのと、注目の新刊とか色々レビュー書きたいのにこれ読んだら絶対レビュー書きたくなるじゃん!と読むのを先延ばしにしてました。
案の定読み終えて書き始めてます(笑)
まあ趣味でやってるブログですし、面白いもの・好きなものを伝えていくのがブログが長続きするコツなのかもしれないですね。
ただなるべく語弊なく『ANGEL VOICE』の魅力を伝えようとするなら「面白い」というより「強い」と表現した方が正しく伝わるかもしれないです。
あらすじだけ見ればよくある奇跡の物語に見えても、堅実に誠実に積み上げてきた40巻の重みを知れば、確固たる信念と努力によって成し遂げた「物語の強さ」を感じ、心揺さぶるものとなるでしょう。
というわけで今回はその「強さ」に触れながら紹介していきたいと思います。
強い監督との出会い
舞台である市立蘭山高校サッカー部は、腕に覚えのあるワルが集まり(喧嘩では)「県内最強軍団」と皮肉られ、不良たちの溜まり場となっている最悪の状態でした。
そんなサッカー部を再生するためやってきた新監督の黒木哲雄。文字通り1からのスタートでした。
そんな状態でもとりあえずのテキトーなチームではなく勝ち上がっていくチームを作ろうと取り組んでいく一本気な彼の心意気につられ一人また一人とメンバーが揃い始めます。
面白いというと斬新な展開や設定だったり、見たことのない個性的なキャラが出てくるのが分かりやすい面白さだと思います。
しかし『ANGEL VOICE』にはそうした斬新さはありません。
監督である黒木が提唱するのは日本一走れるチーム
強豪校に技術面で劣る彼らが、怒涛の勢いで成長し勝ち進んでいく背景にはそんな泥臭さ溢れるプレースタイルにありました。
絶対的王者の存在
市蘭サッカー部に立ち塞がるのは3年連続高校3冠を達成する強豪中の強豪・船和学院。対抗馬の高校も強敵揃いの中で、彼らは全力で立ち向かい急成長を遂げていきます。
強くなるには明確な目標や競い合うライバルが必要です。
桜木花道には流川楓のようなライバルがいたように『ANGEL VOICE』にも成田と乾のような関係がありました。
ただ本作は11対11で戦うチームスポーツであるサッカーという面を考慮してか、個人よりはチーム全体にスポットを多く当てて描いています。
全国レベルの強敵が競う予選で彼らは幾度となく苦戦を強いられます。
そんな苦境の中で、部員を鼓舞するキャプテン・百瀬の存在が最高に熱い。
我の強い部員の中で普段は目立たず、試合中もド派手なプレーがあるわけでもない。
そんな百瀬のすごいところは自分にできる全てを出し切ろうとする姿勢、誰よりもチームの可能性を信じ、くじけそうなときに後押ししてくれる言葉をかけられる誰よりも熱い男。
常にギリギリのチーム状況を支えてきた彼の行動にはぜひ注目してほしいところです。
彼らは練習や試合を通して、何が自分には足りなかったのか、何が相手と違うのかを考え、成長していきます。
不良たちの溜まり場として校内で煙たがられる存在だった市蘭サッカー部も、最後まであきらめず全力で走る彼らのプレーを目の当たりにし、少しずつ状況が変わっていきます。
ヤンキーたちが、良い教師と仲間に出会い、少しずつサッカーにハマって行くというベタで王道のストーリー。
根性論が前面に出ておりクラシックな作品ではあります。
色んなレビューを見ても良い意味ではあるが『スラムダンク』や『スクールウォーズ』『ROOKIES』などの往年の名作に例えられることが多いです。
しかし感動のクライマックスという面でこの作品の右に出るものはないと感じています。
スポーツ漫画では強敵との出会いで選手たちが成長し、名勝負を繰り広げるのが見所の一つですが、例にあげた作品と大きく異なる点は、高畑麻衣という試合とは全く関係ないマネージャーがキーパーソンとなっている点にあります。
一人のマネージャーのためにこの勝利を捧ぐ

監督の指導の下で徐々に力をつけてきても、我の強い部員たちの間ではしばしば喧嘩が起こります。
そんな彼らを一つにまとめたのはマネージャー高畑麻衣の存在でした。
彼女の歌声は市蘭サッカー部の危機を何度も救い、まとまりのなかったチームが少しずつ、確実に変わっていきます。
みんなは一人のために
一人はみんなのために
オレたちがここまでこれたのは高畑のおかげだ
それならオレたちは高畑を喜ばせるため「だけ」に勝ち続ける
それがオレたちができる精一杯のことだ
決戦を前にチームが一つになります
サッカーと歌の親和性
多くのスポーツの傍には名曲がともにありました。
『You’ll Never Walk Alone』はスコットランドのセルティックやプレミアリーグのリヴァプール、日本ではFC東京のサポーターなど多くの有名クラブが応援歌として使われている応援歌の代表曲。
BEST YOU'LL NEVER WALK ALONE EVER!!!
『You’ll Never Walk Alone』の和訳は解釈が様々ですが、本作19巻の解釈に乗っ取り和訳を掲載しています。
君が嵐の中を歩く時でも
しっかりと前を向いて進むのだ
そして暗闇も恐れることはない
嵐が過ぎ去る頃には空が金色に輝き
ヒバリが銀色の鳴き声で
甘くさえずるのが聞こえてくるのだから風に吹かれても歩き続けよう
雨に降られても歩き続けよう
君が抱いてる夢が宙に舞い
吹き飛ばされたとしても
歩こう。歩き続けよう
希望を胸に秘めながら
そうさ、君は決して一人じゃない
君は決して一人じゃない歩こう。歩き続けよう
希望を胸に秘めながら
そうさ、君は決して一人じゃない
君は決して一人じゃない
自分を支えてくれる仲間みんなで力を合わせ、どんな困難も乗り越え目標に向かって突き進もうとする市蘭サッカー部。
彼らの歩んだ道のりを振り返りながら、最終戦の前にぜひ聴いて欲しい一曲です。
全てを受け入れ、物語はクライマックスへ
「バラバラだったチームをひとつにまとめてくれた、あの歌声に応えよう」
第1話目の冒頭シーンは、35巻のハーフタイムにやってきます。
物語が進むにつれ麻衣がどんな運命を辿るのかわかりきっていました。
それでも再びこのシーンが訪れるとき、その言葉の重み、彼らがこれから成し遂げなければならないことを思うと熱いものがこみ上げてくるのです。
冒頭で紹介した通り『ANGEL VOICE』は「面白い」というより「強い」という言葉の方がしっくりきます。
この物語で彼らが何か新しいことをするわけではありません。
超人的な特殊能力があるわけでも、信じられない奇跡が起こることもない。
ただ最後まで己を、仲間を信じて走る。そんな当たり前の面白さを誠実に積み上げていった結果、何だかとんでもない大伽藍が出来上がってしまった。
他の人の言葉を借りて『ANGEL VOICE』を喩えるとまさにそういう作品でした。
感想まとめ
熱いスポーツ漫画を読みたい!と言う人には太鼓判を押してオススメ出来る作品です。
全40巻となかなかのボリュームですが、話自体はテンポもよくそんなに時間もかからず読み終えられると思います。
サッカー漫画より音楽漫画と勘違いされそうなタイトルである点や、週刊少年チャンピオンという、週刊少年誌の中では注目度が低い雑誌に連載されていたなどの理由から多くの人には知られていないと思われる本作。
一方でチャンピオンだからここまで丁寧にぶれることなく描き切ることができたとも言えます。
ジャンプだったら突然の覚醒が入ったり、マガジンなら間延びしてしまう可能性もあったでしょう。
前述のように当たり前を積み重ねた、揺らぐことのない王道のストーリーで、内容的にも往年の名作に例えられることが多いです。
しかし、王道をここまで面白く描ける実力のある作家は思いのほか希少な存在であり、また偉大な先人を踏襲しながらも、意欲的な部分は随所に感じられます。
伏線の上手さ、リアルとフィクションを程よく織り交ぜた絶妙なバランス加減に仕上がっており、スポーツ漫画の金字塔と呼ばれる作品と比較しても遜色ない完成度。
多くのマンガファンに語り継がれて欲しい名作です。