よみコミ!

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漫画の感想ブログ。メジャーなものから隠れた良作まで幅広く読んでいます。誰かの新しい漫画の出会いの場になれば幸いです。

ブタイゼミ 全2巻 その日、私たちは奇跡の目撃者となる

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10年経っても忘れられない芝居があるんだ。
明確に、ふとした瞬間に、唐突に沸き立つ悪夢のような芝居だ。

 good!アフタヌーンで連載していたみかわ絵子先生の初めての商業作品『ブタイゼミ』の完結2巻が今月発売されました。

面白い作品に出会ったとき、私たちは良いものに出会えたと喜ぶだろう。
では『ブタイゼミ』を読み終えたときの感想はどうだろうか?

畏怖?心酔?憧憬?執着?痛快?

もしかするとその感情は自分の中の「面白い」の範疇からずれるかもしれない。
それでも何度も、何度も、感情を突き動かされるたびに、

例えるならサナギから成虫になろうともがくセミのように、一度殻を破り飛び立てば、けたたましく己の感情を騒ぎ立てる。
それもまた傑作と呼ぶにふさわしいものではないだろうか。

『ブタイゼミ』は巻数にしてみればたった2巻の物語だ。
そんなセミのように儚くも、一瞬に命を燃やした二人の物語を紹介していく。

 

二人の化け物が交錯する

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主人公・千石今日太は「何か」を求めて日々を生きる無感情、無表情の男だった。
技術も華も表情も全部ない。そんな男が不思議と全員を注目させて、全員の感情を乱す。化け物か、それともただのバカなのか。
「何か」を求めて男は演劇の舞台へ足を踏み入れる。

 

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もう一人の主人公・如月今日子は化け物だった。
一度スイッチが入ればあらゆる役になりきり、みるものに衝撃を与え続ける。

二人は過去に出会い、再び交錯する。全ては秋の演劇祭で優勝するために。

 

 

その日、私たちは死神の目撃者となる

信じられないものを目にしたとき、あるいは忘れなければならない記憶があるとき、脳はその記憶にフタをすることがある。

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二人は幼少期に出会っていた。

一人は死神にその才能を見出され、死神そのものになり、もう一人は死神に心を奪われ、これまで死んだように生きてきた。

二人が出会うことで、失われたその記憶は再び蘇り始める。
奇しくもそれが彼を、そして彼女の演技を唯一無二のものに仕立て上げるのだからなんと皮肉なことか。

死神は二度蘇る。
一度目は彼の記憶の中で

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二度目は彼女の記憶の中で

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そこに確かに居るのだ。恐ろしい「何か」が

観客はそれぞれの死神を観る。
いないはずのものが、確かにそのとき、彼らの目を通して目撃したのだ。
そんな体験があるとするならば、それは奇跡としか言いようがない。

「死神を観た」だなんて子どもならまだしも大人なら誰も信じてくれないだろう。
誰も信じてくれないならば、それは悪夢以外の何物でもない。
醒めることのない鮮明な記憶。
そんな舞台を観たものはこう語る。

10年経っても忘れられない芝居があるんだ。
明確に、ふとした瞬間に、唐突に沸き立つ悪夢のような芝居だ。

 

 

その日、私たちは生まれ変わる

彼女は舞台を通してでしか生きられないセミのような存在だった。
全てを復讐のために費やし、そのために命を燃やした。

そんな彼女が舞台を通して生まれ変わる。

 

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彼は引っ張り出した。ずっと探していた「何か」を見つけ、彼女自身を見出した。
化け物の殻を破り、引きずり出されたものは「何か」としか形容できない説明のつかない領域。
得体の知れないその体験に感情すべてが揺さぶられる。

すべてを食い散らかし、私たちは生まれ変わる。
その舞台を観たすべての人に「こんな風に全力で生きたい」そう思わせる「何か」がその舞台には確かに存在した。

何もない抜け殻だった日々が、何にでもなれる入れ物に変わったのだ。

10年経っても忘れられない芝居があるんだ。
明確に、ふとした瞬間に、唐突に沸き立つ悪夢のような芝居だ。


そんな芝居を目の当たりにすることができたなら、これまでの日常はすっかり変わってしまうだろう。
そんな芝居を目の当たりにすることができたなら、なんて不幸で、なんて幸せなんだろう。


例えるならサナギから成虫になろうともがくセミのように、一度殻を破り飛び立てば、けたたましく己の感情を騒ぎ立てる。

セミのように儚くも、一瞬に命を燃やした二人の物語。紛れもなく傑作でした。
演劇漫画『ブタイゼミ』ぜひ手に取って読んで欲しい一作です。

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